旅のはじまりです。今回、多大な迷惑をおかけする妻への配慮から、自宅から最寄り駅までタクシーに乗り、そこから湘南新宿ラインの普通列車グリーン車を使って、山手線などの乗り換えなしで池袋に向かいました。これで、都内の混みあった中を子連れで移動するストレスからは解放されます。 
普通列車グリーン車の利用も不慣れなものです。細かいことですが、普通列車グリーン車などいろいろな決済をスイカに集約して効率化・利便性向上を目指しているJRの方針はよくわかりますが、そこでスイカを持たない小学生の次男のグリーン券をどうやって買うのか、また久々に使った自分のスマホのモバイルスイカのアプリをどうやって操作するのか、しばし難航させられて、機械に弱い私よりも、機械の操作や手続きに強い妻の助けを借りながら、なんとか券売機で大人3人、子供1人のグリーン券を購入します。

群馬県を目指すはずなのに、池袋で降りて西武に乗り換えるという点が、まず「阿房列車」らしいところだと思います。池袋駅で西武線の列車などを撮影しつつも、特急専用ホームのベンチで一息ついたとき、子供たちにお菓子を配って機嫌を取ること、列車入線の2~3分前のタイミングを見計らって「もうすぐ来るよ」と注意を促すなど、細かい配慮は忘れてはなりません。

入線してきた特急「ラビュー」は、鉄道ファンならご存じのシルバーの車体で丸みを帯び、大きな窓を持つ斬新なデザインです。事前にネット予約で、一番前の車両の2列目の席を確保してあります。ラビューは運転席の後ろの窓が大きく、前がとてもよく見える贅沢な車両です。しかるに子供2人は、車窓を見ることもなく持参のスマホやタブレットのゲームに夢中なのは、旅に出た意味がないようでもあり、なんとも嘆かわしく勿体ないと思います。さらに最前列の一家の子供たちも、「早く着かないの」「もう帰りたい」などと言っているのが聞こえます。

この車内で、子供たちを差し置いてラビューの前面展望に一番夢中になっているのが、43歳児というべき幼いオジサンである自分のようなのでした。練馬を過ぎれば石神井公園まで複々線区間となり隣の普通列車を走りながらじりじりと追い抜き、小手指の車庫には様々な電車が並んでいます。また前方には奥多摩、秩父の山並みや富士山まで見えてきます。ラビューに何度でも乗ってみたいと思ったのは、私だけの独りよがりなのでしょうか。
妻は、ラビューの広い座席は快適だと評価してくれていましたが、10時40分に終点飯能に着くと、どうも少し列車酔いしたようだと言います。私の高速道路などでの下手な車の運転よりははるかに快適なはずですが、そもそも妻は列車に乗るのが好きでなく車の方が良いらしいのです。長男は私の積年の「鉄道教育」の成果があって、一応の電車好きに育っていますが、次男は父親の影響力が弱まるせいかさほど電車は好きでない、ただし車酔いもするので自動車はもっと好きでない、という家族構成です。
飯能駅では11時13分まで33分間の待ち時間、駅のベンチで一息つくことができます。私と長男は、入線してきた8両編成の普通列車が4両と4両に切り離される作業をカメラに収めようとしますが、いつまでも列車は分割されません。次男は興味がないようでベンチに座っています。私と長男の後ろには他にも電車が好きそうな人たちが2~3人それとなく集まっています。そうしているうち、少し目を離した間に列車は分割されて出て行ってしまい、作業をカメラに収めることはできませんでした。

妻に事の顛末を話したところ、「駅員さんにあと何分で切り離されるか聞けば良かったのに」と言います。しかし私と長男は、趣味的な目的のために駅員さんの手を煩わせることは申し訳なくも恥ずかしいという点で、ほぼ認識が一致していました。人柄の違いが表れた、ということなのでしょうか。
東飯能まで1駅、11時15分着。JR八高線に乗り換えて11時20分発、また1駅乗って11時25分に高麗川着という細かい乗り継ぎが続きます。先ほど列車酔いを訴えた妻に続いて、次男も「疲れた」と言い始めました。

高麗川発11時32分の列車はディーゼルカーで、疲れた次男を後目に、私の旅の興奮は高まります。残り3人は座席に座ってもらい、私はまた最前部にかぶりついて鉄道旅を続けました。一人でマイペースに、流れ去るレールと時刻表を眺めて楽しんでいたものの、これでこの鉄道旅を家族と続けられるかという不安は感じていました。

次の高崎では、当初は駅の立ち食い蕎麦で昼食を済ませる計画でしたが、私は子供の好きなモスバーガーに場所を変えることを思いつき、そう妻子に提案しました。そのうち次男は寝てしまい、疲れも一応は落ち着いたようでした。

八高線の非電化区間は高麗川から高崎まで所要1時間28分。さすがに私も、子供たちに、「あと何駅、何分で高崎に着くよ」と小まめに知らせるようになりました。
高崎には13時到着。モスバーガーやラーメンの入ったフードコートまで行って昼食をとり、家族もエネルギーを回復しました。
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