家族との旅行で、父親のワガママを押し通したいと思いました。ワガママというのは、私の鉄道ファンとしての想いを貫くということです。家族旅行といえば、妻や子の希望を優先させてリゾート地やディズニーランドに出かけるなどして「家族サービス」に努力するのが世の父親の理想なのかもしれませんが、私としてはそれでは折り合いがつかないのです。
そもそも鉄道ファンというものは、世の中からは馬鹿馬鹿しく、時に迷惑な存在として思われているものです。もちろん一部の鉄道ファン(マニア)の、例えば写真撮影に夢中になって列車の運行を妨害するなど、世の中に迷惑をかける行動には大いに問題があり、気を付けなければならないと思います。しかし本来、鉄道ファンというものは、社会に害を及ぼさない範囲においては、自分たちの趣味についてオタクだなどと卑下することもなく、堂々としていれば良いのだと思います。
鉄道ファンの大先輩で、がんこおやじそのものの、今の男性にはほとんどないような気骨をお持ちである内田百閒先生は、「第一阿房列車」の有名な書き出しで、
「阿房と云うのは、人の思わくに調子を合わせてそう云うだけの話で、自分で勿論阿房だなどと考えてはいない。」 「用事がなければどこへも行ってはいけないと云うわけはない。なんにも用事がないけれど、汽車に乗って大阪へ行って来ようと思う。」 という力強いお言葉を残されています。
このような鉄道ファンの気持ちのもと、妻子を巻き込んで、現代版「阿房列車」を走らせたいと思い立ちました。
行先は、東京都内の自宅を出て、群馬県の磯部温泉に決めました。私は碓氷峠(旧信越本線の横川~軽井沢間)の鉄道遺産が好きで、その保全の支援をしたくて安中市にふるさと納税を収めたところ、返礼品として宿泊券をいただいたからという、これまた鉄道ファンらしい理由です。
ではそこまでどうやって行くのでしょうか。一般的には東京から新幹線に乗って高崎で乗り換えて磯部まで。例えば東京発10時16分の「とき315号」でしたら、高崎で乗り換えて所要時間1時間26分、11時42分にはもう磯部に着いてしまいます。優雅にお昼ごはんを食べてから、温泉を楽しむことができるでしょう。もっとも「普通の人」は、車に乗るのでしょうね。10時に東京を出ると、関越自動車道の週末朝下りの渋滞に巻き込まれるでしょうが、まあ3時間、渋滞がひどくても4時間あれば着くでしょうか。
ところが私が今回取ったルートは、池袋10時発の西武の新型ラビュー車両による特急「むさし65号」に乗って飯能を目指し、途中7回もの乗り換えを経て、7時間余りを経て17時02分にようやく磯部駅に到着するという、丸1日がかりでただ列車に乗り続けるというものなのです。

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